営業秘密と情報管理

1 ノウハウや顧客名簿等の情報は企業にとってかけがえのない財産です。
 これらの情報は、有体物とは異なり人の記憶を介在することから、一度流出すれば「取り戻す」ことはまず不可能で
 す。しかも、何人でも同時に活用することが可能であり、また、遠隔地であっても瞬時に到達することができる性質
 から、社外へ流出した際の損害は甚大なものとなる恐れがあります。
  そのため、多くの企業はこれらの情報の外部への流出を防止しようと取り組んでいますが、これらの取り組みが 
 法的にも十分な成果を挙げうるか否かは検証が必要です。

2 企業におけるこれらの情報を保護する法制として「不正競争防止法」が挙げられます。
 この不正競争防止法によって、「営業秘密」として保護される要件は以下の通りです(不正競争防止法2条4項)。
 @秘密として管理されている(秘密管理)
 A生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって(有用性)
 B公然と知られていないこと(非公然性)
  
  まず、@秘密管理についてですが、単に「社外秘」等の朱印を書類に押していたからといって十分な秘密管理が
 できていたとはいえません。
  すなわち、秘密管理がなされているというためには、例えば、当該情報が秘密であることを明らかにした上で、当
 該情報を金庫等一般の従業員が触れることができない状態として、接触できる者を一定の役職または業務に携わ
 る者に限定し、さらに、当該情報に接触できる者との間で秘密保持契約を締結する等の措置が必要なのです(一 
 例であって業種によっては独自の工夫が必要でしょう)。
  秘密保持契約については、入社時及び退職時において従業員との間で締結することが一般的ですが、人材の流
 動化の進行と共に情報の流出の危険性も増大していることから、プロジェクト毎に秘密保持契約を締結する等徹底
 した秘密管理が求められています。
 なお、退職時の秘密保持契約には、「私は同業他社には再就職しません」等競業避止義務まで負わせるものもあ
 りますが、年数・地域的な限定、相当な対価等の措置のない競業避止義務を負わせる契約の効力は否定される 
 可能性が高いため、注意が必要です。

  次に、A有用性についてですが、情報であっても事業活動に有用でないものは不正競争防止法として保護の必
 要性に乏しいため保護されません(例えば、プライバシーに関する情報については民法などによるべきであり「営業
 秘密」としては保護されません)。
  ここに、有用性に該当する情報としては、例えば製造方法・実験の結果(技術上の情報)や顧客名簿・フランチャ
 イズチェーン等の運営方法(営業上の情報)等が挙げられます。

  最後に、B非公然性ですが、誰でも知りうる公知の事実について「秘密」として保護することは二律背反すること
 ですから、非公然性が要件として求められることは当然です。
  したがって、他社に対して、ノウハウ等の開示を行う際には、他社との間においても秘密保持契約を締結するとい
 う当然の措置が求められることとなります。

3 かかる「営業秘密」が「不正行為」によって侵害された場合には、企業は差止請求及び損害賠償請求をすること 
 ができます(不正競争防止法3条・4条)。
 不正競争防止法が「不正競争」とする行為は次のとおりです(不正競争防止法2条1項)。
 @窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「不正取得行為」という。)又は不 
  正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(秘密を保持しつつ特定の者に示すことを 
  含む。以下同じ。)
 Aその営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を
  取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
 Bその取得した後にその営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らな
  いでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為
 C営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の競業そ
  の他の不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示す
  る行為
 Dその営業秘密について不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開
  示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であるこ
  と若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営
  業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
 Eその取得した後にその営業秘密について不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密について不正開示行
  為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行
  為
  これらの「不正行為」に該当するためには、行為者が「知って」いることが必要であることから、行為者に対して営
 業秘密を侵害することを知らしめるため秘密保持契約を締結することや、行為者に対して速やかに警告書を送達す
 ることで行為者に侵害行為を行っていることを知らせる必要があるということなります。

4 現代のグローバルな競争社会においては、単なる価格競争ではなく商品やサービスに高度な付加価値を付ける
 ことで利益を生むに至っており、付加価値創設のため情報の有用性はますます高まる一方で、人材の流動化やハ
 ッカーによる情報窃盗など情報の流失の危険性も高まる一方です。
  かかる情勢の中で、企業が情報を保護するためには、日頃から情報管理を徹底する必要があり、その情報管理
 においては、ファイヤーウオールなどハード面での管理だけでなく、秘密保持契約などソフト面での管理まで行うこ
 とが重要なのです。
(柴田 耕太郎)
    

トップへ
トップへ
戻る
戻る