小型船舶の登録制度

質問 ヨット・モーターボートの登録制度ができたと聞きましたが、ほんとうですか。

回答 残念ながら(?)ほんとうです。昔から海は誰からもうるさいことを言われずに自由に航行できるのが原則でし 
   た。特に恐妻家である私にとってはほとんど唯一のくつろぎの場でした。もともと「法」は、人と人または人と国
   の関係を規律するルールですから、海の上で誰にも干渉されることなくセーリングしたり、釣りをしたりする人に
   は無縁のものでした。なるほど公海上でも2隻の船が衝突するのを避けるといったルールは、大昔から国際条 
   約や国内法に規定がありましたが、あとは自己責任で自由に大海原を行き来できたのです。
    ヨット操縦のための免許とか。6年毎に船舶検査を受けなければならないとか。あげくのはてに飲酒して操船 
   してはならない、などという法律がこのところ立て続けに制定され、世知辛い海の上になったものだという感がし
   ておりました。
    そこに降って湧いたのが、今回の登録制度です。「小型船舶の登録等に関する法律」平成13年法律第102号
   で制定、すぐ平成14年法律第54号で改正されています(http://law.e-gov.go.jp/ 参照)。ともかく法律ですから
   国会で議員さんも賛成したのでしょう。どなたも反対したという話は聞きません。本当に議案に目を通しているん
   ですかね。国民の知らないところで法律が作られていくことがあると思うとぞっとします。
    小型船舶検査に関する法律ができたときには、船舶の利用者の安全のためということで納得しました。今回
   の「登録」の制度は何が目的でしょうか。どうも取締を目的としたとしか考えられません。次には税金を課する台
   帳として転用するのでしょう。
    ただ無許可で漁港や公河川にプレジャーボートを繋いだり、海水浴場に水上バイクを乗り入れたり、覚醒剤の
   洋上取引をしたりといった船乗りの風上におけない不心得者が増えてきたことについては率直に反省しなけれ
   ばならないと思います。
     ともあれ、登録による「船舶番号」のお世話になるようなことがなきよう、安全な航海をしたいものです。
  
 1 いつまでに登録しなければならないのでしょうか。

   小型船舶について、平成14年4月1日以降に船舶検査を受ける船舶はその検査の日までに、そうでない船舶も
  平成17年4月1日までに登録をしなければなりません。

 2 登録手続はどうするのですか。
   
   国土交通大臣宛てですが、日本小型船舶検査機構(JCI)の各支部で申請して下さい。磁気ディスクに記録さ
  れます。しっかり手数料をとられます。詳細はhttp://www.jci.go.jpを閲覧してください。登録原簿については、誰
  でも同機構で登録事項証明書の発行の請求ができます。手数料は一通1350円です。

 3 登録後にすることはありますか。

   船舶番号を割り当てられますから船舶の所定の位置に船舶番号を表示しなければなりません。なお小型船舶
  は平成14年4月以降の製造または輸入の段階で既に船体識別番号が船体に打刻されております(それ以前の
  船はJCIにお尋ねください)。登録はこの番号で船舶を特定して行うことになります。
   国際航海たとえば釜山レースに参加するには、本船並に船舶国籍証書の発行を受けて船内に備え置かなけれ
  ばなりません。

 4 どのような船舶が「小型船舶」になるのでしょうか。
 
 1) 総トン数で20トン未満の船です。総トンというのは船室等の容積をもとに算出する計測法で、重量トンとは違い
  ます。12人定員の9メートル、重量が3トン位のヨットでも総トン数は6・5トン(旧型のレディバードVの場合。10年
  位前に測度法が変わって、今の船なら5トン位になります)ですので、20総トンというのは相当大きな船舶です。
  真冬でも北洋まで出かけることのできる漁船が、事故は多いのですがリミットの19トンです。
   20総トンを越える船舶を船乗りは「本船」と呼んでおりますが、従来から船舶登録が義務づけられておりました。
 2) 水上バイクも登録が必要です。エンジンがついている船は、5トン未満で小型船舶検査を受ける必要がない船 
  でも登録が必要です。
 3) エンジンがないヨット、ろかいで動く船は不要です。
 4) 漁船は除外され別の登録制度があります。
 5) 外国船籍の船舶は不要ですが、日本の各港間を航行する船舶は登録が必要となります。

 5 登録の効力はなんですか(一般的効力)。

   小型船舶は、「小型船舶登録原簿」に登録を受けなければ、航行してはなりません。
   違反には6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられます。注意していただきたいのは、海上保安
  官の臨検で違反が見つかりますと、普通の司法警察員と違ってお目溢しをする裁量権限がないので、全件検察
  官に送致されてしまうことです。30万円以下という範囲でどのくらいの量刑となるのか今のところ判例がなくわか
  りませんが、自動車関係の違反に比べて高額の罰金が課せられます。伊達弁護士に依頼しても同じです。

 6 登録に対抗力がありますか(法律家向けの解説です。ごめんなさい)。
 
   登録は民法177 条の対抗要件になります。「所有権の得喪は、登録を受けなければ第三者に対抗することが
  できない」(第4条)とありますから、登録に物権変動の対抗力があるのだろうと思います。従来、小型船舶は動
  産扱いで占有の移転が対抗要件でした。
   小型船舶を譲渡する者は、所定事項を記載した譲渡証明書を譲受人に交付しなければなりません。譲渡証明 
  書は一通に限り、また以前譲渡を受けたときにもらった譲渡証明書を有するときは、合わせてこれも譲受人に交
  付して、譲受人は移転登録の申請書に添付して提出しなければなりません。随分親切な規定ですね。
   口頭の売買契約のときはどうするんでしょうね。確認判決を添付しろとでもいうのでしょうか。そのうち省令で定
  められるかも知れません。
   所有権の移転をしたときには15日以内に移転登録の申請をしなければなりません。怠ると30万円以下の罰金
  です。たんなる対抗要件ではないのですね。まさか登録に公信力あるなんてことないでしょうね(この議論法科の
  学生さんならわかるかな)。
    なお「登録を受けた小型船舶」なので、未登録の船舶は未登録の自動車などと同様に通常の動産扱いで占有
  の移転と譲渡証明書の交付が対抗要件になるものと思われます。
   ただし新所有者には15日以内の登録義務があります。30万円以下の罰金。
   また漁船は本法による登録はありませんので、その所有権移転の対抗要件は占有でしょうか。遊漁船で漁船
  と同じ形の船はいっぱいありますので困りますね。どなたか漁船法昭和25年法律第 178 号を調べて見てくださ
  い。漁船法では登録の対抗力の規定はありません。

 7 質権の設定はできないとか(第26条。もちろん罰則はありませんが登録制度がありません)。

   よけいなお世話ですね。質権というのは私法関係です。お上に規制して貰いたくありません。取締の便宜なん
  かを考えているのでしょうか。いずれにせよ移転登録をして譲渡担保にできないこともないでしょう。合わせて傭船
  契約も忘れないように。自動車には抵当権の登録の制度がありますが、小型船舶では抵当権の登録の制度が
  在ありません。法律上抵当権の設定ができないという規定はありませんからそのうち整備されるのでしょうか。
   小型船舶でも抵当権設定の必要は充分にあります。

 8 強制執行、競売についてまで規定があるんですか。

   あなたには関係のない話しかもしれませんね。地方裁判所が執行裁判所または保全執行裁判所として管轄す
  るとの規定があります。

 9 破産や民事再生法の申立の際に注意することは。

   忘れずに登録原簿を閲覧して、登録事項証明書の交付を受けて申立裁判所に提出しなければなりません。個
  人民事再生の申立をするのはヨットをしょっちゅう買い換えるような人に多いんですって。Hさん、Yさん気をつけて
  ね。ア−面倒なことです。

 10 海上にも日本国憲法は及んでいるのでしょうか。
 
   学生のとき、領海外にあっても日本船籍の船舶内においては国内法が適用されると習いましたが、その後法律
  が変わったようです。すくなくともこれに気づいた国会議員はいなかったようです。
   この法律には、「国土交通大臣又はその職員は、船舶所有者の事業場もしくは船舶の所在場所、船舶に立ち
  入り、船舶または帳簿書類を検査し、関係者に質問ができる」という規定があります(第28条第1項)。
   令状なしにですよ。理由は「この立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」か
  ら(第28条3項)。このロジック法科の学生さんならわかるかな。わかった人は不合格です。
   検査を拒み、妨げ、質問に答えず、虚偽の陳述をしたものは30万円以下の罰金です。
   すくなくとも小型船舶には日本国憲法は及びません。
                                  (伊達 健太郎)
    

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